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市立吹田サッカースタジアム (ガンバ大阪 新スタジアム)

2015年

日本初、募金で作るスタジアム。待望のガンバ大阪の新スタジアムの竣工式が、2015年10月10日に開催。私も5万円募金をしたので招待されました。

ガンバ大阪のサポーターで、年間パスを持つ私。バリアフリーも世界基準で最高のものにして欲しいと歴代の社長に懇願したり、企画書を送ったりしましたが、見事に無視(涙)。大丈夫ですからの一点張り。これでも10年以上、バリアフリーの専門家として商売しており、車いすでスポーツ観戦した経験は、世界中で一番多いので、意見を聞いてくれてもいいのに、まあそれが現実。

募金者の中に、私の名前あり。もし訪れることがあれば探してみてください。ホームゴール裏にあります。

さて、肝心の車いす席。1階席コンコースの最後列が全て、車いす席になっています。その数は約300。収容が4万人なので、0.75%とオリパラ基準をクリア。日本で最も多い車いす席の設置数です。メインスタンド、アウェイゴール裏、バックスタンド、どこでも座ることができます(指定席になるかもしれないけど)。ホームゴール裏は除く。

私が球団に再三主張したのは、サイトラインの確保。前の人が立つと見えなくなるのを防ぐこと。そして屋根が迫りすぎて視界が遮られることを避けること。2階席の屋根が少しありますが、許容範囲。米国なら、これに、1階席の最前列の一部。3階席にも車いす席が作られ、車いす席の価格帯も複数になりますが、ガンバは一律料金。最安値の価格帯になる予定です。

車いす席がメイン導線となるため、実際の試合では、立見客の乱入が心配されます。後ろに柵やコーンを立てるとかの対策をするか、全部の車いす席が埋まるとは考えにくいので、一部だけ係員が立って、車いす席をブロックするなどあるかもしれません。多目的トイレは、コンコースの後ろにありますが、一般トイレが、外に出て階段で降りた2階にしかありません。おそらく階段を降りるのが面倒な一般客が多目的トイレを使うことが予想され、車いす観客のトイレ利用は少し不便になるかもしれません。

あと、道路から座席に行くのに、エレベーターに乗りましたが、車いす2台しか入りません。試合終了後は大混雑でしょう。ホームゴール裏の奥に、長いスロープがあるので、そちらから退出するのが良さそうです。

多くの募金者が集まり、式典は無事に終了。車いす座席数は満点。座席の位置は80点。座席の選択肢の多さは80点。現時点で日本での最高バリアフリーのスタジアムと言えるでしょう。しかし大きな問題はアクセスです。

モノレールの駅から遠い。2ルートがありますが、青色のルートしか、車いすは行けません。しかも狭い歩道、長いスロープの歩道橋があります。エキスポシティの中を通って行ければ良いのでしょうが、残念ながら2つの施設を結ぶ橋などは無し。今でさえ、試合後にモノレールに乗るのは大混雑で車いすでは危険。

Jリーグの多くの球団(浦和、鹿島、横浜、東京、川崎、名古屋、神戸、等々)では、車いす席の観客のために、駐車場の確保をしてくれます。電話予約&駐車券の発券。ちなみに、欧米では電話予約や駐車券の発行はなく、現地に行けば停めれるシステム。残念ながら、今までガンバではその配慮はなし。万博競技場では、車いす席の座席数が少ないので、問題にはなりませんでした。

駐車場の管理が、球団とは別の組織(万博機構)のため、難しいということも理由。実際に競技場前の東駐車場に停めようと思うと、試合開始の数時間前に来なければならず、駐車場がなく観戦を諦めて家に帰ったという車いすの人を何人か見ました。いわゆる障害者用駐車スペースにも、一般席に座る外見上は障害があるとは見えない人が多く停めています。車いす席に座っている人で停めている人は僅かです。ちなみに、法律では誰が障害者駐車スペースに停めていいのか明確な規定も罰則も日本にはありません。

せっかく大量の車いす席を作ったのに、観戦する人が少ないと悲しいです。駐車場の確保があれば、埼玉スタジアムのように多くの人が観戦に来るでしょう。なんとか工夫して、車いす客の駐車場確保をしていだけないか?と社長にまた手紙を書きました。施設だけでなく、アクセスまで保証され、線となってこそのバリアフリーです。


参考: カナダの国際会議の資料より、理想の車いす席のデザイン。

パラリンピックの競技場の車いす席(Mobility Seating)と、拡張シート(Enhanced Seating)。拡張とは体重の重たい、体の大きい人のことです。そんな配慮まであります。

スタジアムの車いす席について、私が雑誌に寄稿した文章です。ご覧ください。
公益財団法人 都市緑化機構 機関誌 「都市緑化技術 98号 特集ユニバーサルデザイン」