研究所紹介 代表プロフィール コンサルティング 講演/研修 研究員 お問い合わせ
木島英登バリアフリー研究所トップページ


Travel for All トップページ

世界の事例紹介 日本の事例紹介 日本のバリアフリーの特徴 豆知識 考察 リンク

障害とは何か?

障害者基本法によると、「障害者とは、身体障害、知的障害又は精神障害があるため長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」となっています。身体障害者、知的障害者、精神障害者の3つがあり、それぞれに身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者手帳が交付されています。平成28年度 厚生労度白書によると、身体障害 394万人、知的障害 74万人、精神障害 392万人 合計860万人となっています。令和元年では、身体障害436万人、知的障害108万人、精神障害419万人 合計963万人。5年で100万人の増加(発達障害の認定などが理由の1つ)と定義が拡がっています。複数の障害を併せもつ人もいますが、日本の総人口で割ると、人口比は7.6%となります。

世界の障害者割合を様々なデータより集めてみました(データソースは様々。参考までに)。どうしてこんなにも差があるのでしょうか? 定義の違いです。欧米では基本的には自分自身が不自由だと感じたら障害があると考えます。障害というより不自由なのです。耳が聞こえない友人が北朝鮮に旅行した際、現地のガイドに北朝鮮にも聴覚障害の人はいるのか尋ねたら「我が民族にそんな劣等な人はいない」と答えられたそうです。ガイドの証言でいくと北朝鮮は0%となります。障害者数が多ければ、バリアフリーを行うのにもハードルが低くなります。より多くの人に活用されると意識され、特別なものとして考えられないからです。

イタリアでは、刑務所からの出所者も、いわゆる障害者(日本語で適切な表現はありません)の範囲に当てはまります。HIV感染者、アルコール中毒者も同じです。職業訓練や就業対策などは同じ枠内で考えられています。また、その国の母国語を話せないことで、いわゆる障害者と考える国もあります。コミュニケーションが取れないわけですから。障害者というより、社会的に何か不自由を感じる人と考えるほうがいいかもしれません。

フランスでは、障害者就労支援が、雇用へのアクセスがとくに困難な人々として、職業資格もなく学校生活や社会生活へ不適応をしめす若者、長期的失業者、寡婦、元受刑者、元娼婦、人種的マイノリティ、薬物依存症から抜け出たばかりの人、などが含まれます。グローバリゼーションや新しい生産技術の導入においてますます強まる労働市場での選別の影響を真っ先に受ける人々とされています。日本で社会問題となっている引きこもり(推定70万人)も障害者となります。

日本は障害者手帳のもと、手厚い福祉政策がなされているのが特徴です。社会参加・共生ということより、保護・隔離すべき特別な存在として扱われています。それぞれの不自由なことに焦点をあてず、社会生活が困難な助けられる人と一くくりにされています。世界視点でみてみれば、日常生活に不自由を感じる人が、バリアフリーのメインターゲットです。 そこには一時的に不自由を感じる人(妊婦、ケガした人など)も含まれています。欧米では、日本のようにバリアフリー設備が「障害者専用」と書かれることはありません。

所得保障、生活保護、医療費減免、駐車ステッカー、福祉器具などの福祉政策は、それぞれ必要な人に都度対処するやり方です。障害者=手帳の保持者、という概念を変え、より多くの人がバリアフリーを当事者として考えられるかが、バリアフリー推進の一つの鍵となってくるでしょう。

1年間米国の北カリフォルニアに住んだことがありますが、多くの電動車いすユーザーを見ました。その半数以上が、いわゆる肥満の方々でした。歩くのが大変だから買物など電動車いす(スクーター)を使うのです。家の中は歩いている人も多いでしょう。彼らは日本にくると障害者になるのでしょうか? 車いす=障害の象徴である日本とは違い、単なる便利な道具として使われているのに驚きました。そのとき感じたのが「眼鏡をかけている人は、障害者なのか?」。眼鏡がなければ視力が落ちます。自動車の運転などに不自由が生じます。眼鏡をかけている人が大多数だから、眼鏡が簡単な道具で値段も安いから該当しないのでしょうが、人類が歩かなくなって全員が車いすに乗って移動するような未来がひょっとして来るかもしれません。その時代に行けば、車いすの私は障害者ではなくなるのかもしれません。

 

國學院大学講師 秋山 隆志郎 イギリス・スウェーデンにおける聴覚障害者向け番組 (2002年)より

イギリスやスウェーデンでは、聴覚障害者の対人口比が、日本に比べ極めて高いことにふれておこう。どちらの国でも、公式統計で人口のおよそ1割が聴覚障害者であるといっている。イギリスの聴覚障害者団体RINDにいたっては、イギリス人の7人に1人は聴覚障害者であると考えている。

筆者は、かってドイツ・フランス・アメリカ・オーストラリアの聴覚障害者テレビを取材したが、これらの国々においても、行政や放送事業者も聴覚障害者団体も、聴覚障害者は人口のだいたい1割前後であるといっていた。

この比率を日本に当てはめると、日本の聴覚障害者の数は1200万人になってしまう。これは、おそらく「聴覚障害者」の定義が日本と欧米では異なっているからであろう。例えば、日本には補聴器を使っている高齢者は多いが、日本では彼らを普通聴覚障害者とは呼ばないし、国の統計にも彼らの大部分は、障害者の範疇に入っていない。もし「耳が遠い」といわれている人を含めれば、日本の聴覚障害者比率も欧米並みになるかもしれない。

 

障害の構造的理解

1980年 WHO 「国際障害分類」 ICIDH International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps

 ・ 機能障害   
Impairment  (医学的見地 欠損など)  
 ・ 能力障害   
Disability    (具体的な行動制限 補助具によって改善可能) 
 ・ 社会的不利  
Handicap   (社会環境によって既定)

 例: 下半身麻痺 → 歩くことができない → 就職が難しい
     視力がない → 文字を読めない   → 普通校に行けない 

障壁(バリア)と障害は一致しませんが、障害を構造的に分解すると、社会的不利(Handicap)が浮かびあがります。この社会的不利(Handicap)をいかに少なくすることが、バリアフリーのポイントです。

2001年 WHO 「国際生活機能分類」 ICF International Classification of Functioning, Disability and Health では、
身体機能の障害による生活機能の障害・社会的不利を分類するという考え方が中心であったのを、環境因子や個人因子を加え、障害という枠を越え、生活機能として総合的に定義するようになっている。属性ではなく、生活、習慣、文化など環境因子を加えた状況で判断しているのが特徴です。

障害者は四六時中、障害者ではない。シチュエーションごとに障害はあったり、なかったり、します。それが環境による障害の定義です。よって、障害が「ある」と「ない」の境界線は動かせたり消せたりします。

 
精神障害について

日本で急増している精神障害者。障害者雇用の雇用率にも含むようになりました。ところが、日本以外の多くの国では、精神障害を「障害」と認めないのが主流です。あくまで誰もが成り得る疾患であって、障害ではないとする。いわゆる障害者とは、身体と知的が該当。世界中で、精神障害認定の基準となるのは、DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) というアメリカ精神医学会のマニュアルですが、ここでも、 disorder という単語が使われ、 障害分類ではない単語が使われています。

 

故 寬仁親王殿下のお言葉

   100%の障害者はいない。 100%の健常者はいない。