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スタジアム
 

論点  車いす席の利用をいわゆる障害者だけに限定するのか
選択  複数のエリアで見れることが理想。一般席の減少にならないように注意。
アクセス  点でなく、線のバリアフリーも重要。導線もきちんと考える。 

 
考え方

 ・ 単に法令を満たすだけでなく、利用者視点に立った使いやすいバリアフリーにする

 

 最初から、バリアフリー化を考えることが、デザインにおいても、コストにおいても重要です。
 スタジアムのおけるバリアフリーは、主に車いす対応(=車いす席)と考えます。

 

・ 過剰な特別扱い(障害の強調、逆差別)はしない。出来る限り普通のお客様と同じサービスに

 

 日本では、福祉という名のもとに、バリアフリーの設備やサービスは、高コスト体質になっています。
 利用者も完璧を求めすぎる傾向があります。
妥当な配慮 reasonable accommodation を考えましょう。
 

 
・ 車いす席を、障害者(=障害者手帳保持者)だけの利用に限定しない
 
  障害者手帳保持者に限定すれば、例えば、外国人旅行者などが利用できません。
  一時的に車いすに乗る人(足の骨折など)、老齢の人、病気の人も、利用してもいいと思います。
  対象範囲を広げること=多くの人に関わること、となりバリアフリー化への理解が得られます。


 
車いす席のデザイン

 

・ 車いす席の前に、通路があるのは絶対ダメ!

 

 従来のスタンドの一部を切り取って、車いすスペースを作るつくる方法ですが、間違っています。サイトライン(視界)が確保されず、ピッチが見えにくいこと、前方の通路を人が通って見えないことが、問題です。失敗例として、長居スタジアムと札幌ドームが挙げられます。長居は利用者の批判を受け、その後の改修で迫り出し式に変更。札幌ドームは通路に座るように変更されました。古いスタジアムの場合、スタンド最前列か、最後列に、車いす席を作るのが適切です。

 

  

   (長居スタジアム)              (札幌ドーム)             (山形総合運動公園)

 

・ 座席最後列での、迫り出し式が基本

 

 車いす席の前が、通路になるのは誤りであるという認識が進み、座席の最後列に車いす席が作られるようになりました。前方の人が立つと見えないこともあるため、迫り出して車いす席を作ります。埼玉スタジアムは最初、そのまま後ろに座る仕様だったのを、視界確保のため1列つぶして、迫り出し式に変更しています。

 

  
     (横浜国際競技場)              (池田市五月山体育館)            (ウィングスタジアム神戸)

 

・ 後方座席の視界確保と、立ち見客の防止

 

 迫り出し式が、車いす席の理想形となっていますが、注意しなければならないことがあります。後方に座席がある場合、それらの観客の視界を遮らないことです。車いす席の視界が良好な横浜、神戸、仙台のスタジアムは、後方座席も同じ傾斜になっているため、車いす席に観客がいると ピッチが見えにくくなるのが問題です。

 

 車いす席の後ろが通路になっている場合や、観客の主動線となっている場合には、立ち見客が入ってくる問題があります。座席がほとんど埋まらない場合など、出入口の前ということもあり、自然に観客が滞留してしまいます。車いす席に立ち見客が入ってしまうと、後ろの一般客がピッチが見えなくなるという事態が発生します。

 
 
主動線の横断通路が中段にある場合は、通行客が視線を遮らないように、後方座席の最前列のを高さを上げて設置します。フクアリ、鳥栖スタジアム、埼玉スタジアムが好例です。

 


    (掘りこみ式)                     (迫り出し式)                      (迫り出し式 二段階傾斜)

 

 

・ 最前列の留意点

 

 車いす席の後ろが通路になると、立ち見客の乱入、観客の滞留が問題になるため、最前列か、最後列が理想と考えます。日本では鹿島スタジアムが挙げられますが、特別に設置されているため一般客との一体感に欠ける問題があります。また、車いす席専用の入口となり、スタジアム内の売店やショップへ行くことが難しくなるという問題が発生します。しかしながら、車いす対応トイレの一般利用が防げるという利点もあります。

 

  

      (鹿島スタジアム)               (英国 アーセナル ハイベリー)             (ギリシャ オリンピアコス)

 

 

二層式スタジアム 1階席最後尾の留意点

 

 バックスタンド最後尾すべてを車いす席にするスタジアムがあります。前方の客が立ってもピッチが見えることが大前提です(豊田スタジアムはNG)。車いすの観客が少ない場合、観客が滞留して、立ち見席になっているところもあるので場内整理か、マナーが必要です。札幌ドーム外野、厚別競技場などは、車いす席を応援団が占拠しています。

 

 見過ごされているのが、ピッチ以外の視界です。上部に2階席が迫り、開放感がありません。オーロラビジョンが見えないことも多いです(新潟ビッグスワンなど)。観戦時に圧迫感を感じます。空が見えること、天井が見えること、上部が開放していると気持ちがいいです。上部に2階席があると、雨に濡れないという利点がありますが、スタンドに屋根がある場合は関係ありません。

 

(オランダ アヤックス)          (ドイツ ヘルタベルリン)           (香港スタジアム)           (豊田スタジアム)  
  

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屋根が邪魔になる。

  
屋根が邪魔にならない。

トロント パンパシフィックゲーム2015 施設整備の資料です。


座席位置

・ 全ての座席エリアに、車いす席があることが理想

 

 座席の選択ができることは幸せです。 アウェイの応援ができることも幸せです。複数のエリアに、車いす席が設けられ、多様な観戦方法があるのが理想です。


(米国 サンフランシスコ)                                   (ジェフ千葉 フクアリ)    

 
※参考 アメリカの車いす席

 

 バリアフリー先進国のアメリカの野球場、競技場、アリーナなどは、基本的にどのエリアにも、車いす席があります。  車いすだけでなく、一般の人も座れるようになっていることが多いです。車いすに乗った客が来ると座席を取り外します。

 
 車いす客がいないときは、パイプ椅子を置いて、一般客を座らせる場合もあります。誰もが利用できる席のため、階段乗降が大変な、杖の人や高齢者も座ることも多いです。専用にしないことで、座席数減少による営業収入の減少を防いでいます。

 

 ちなみに、欧州では、車いす席は、日本と同様に専用となっています。すべてのエリアに車いす席はなく、車いす席は一ヶ所にしか設置されないことが、ほとんどです。その代わり無料招待になります。

  
(米国 サンフランシスコ)                  (米国 シアトル)                   (米国 シアトル)  


座席数

 妥当な車いす席の数は難しいところです。多ければ良いというものではありません。利用者が少なければ、観客が滞留し、立見席として使われたりします。 (例:日産スタジアム、豊田スタジアムなど)。スペースの無駄使いとなり、一般座席数の減少となるのは勿体ないです。

 

 座席数×0.3 程度が妥当でしょうか? 収容人数が、3人ならば、90席になります。一般座席を減らさないような設計ならば、最後列や最前列をすべて車いす席にすることも可能です。オリンピック・パラリンピックの会場では、1%の設置を求めていたりもします。

 

 

北米では、車いす席(共用で、階段歩行の苦手な人なども座る)は、全体の3%。体重の思い人、幅広の座席など、通路側に設置するエンハンス座席を含めて、5%が、座席への配慮が必要とされています。設置割合は環境や国によって事情は違いますが、時代によって変化して、増加しているのは事実です。


チケット

 

・ 簡単に買えること

 

 車いす席は、優遇(無料、介護者無料、駐車場手配)があったり、関係者入口から入るなどの別案内があるため、特別な手配が必要なことが多く、面倒です。 電話、ファックス、登録、ときには銀行振込。もっと簡単に気軽にチケットが購入できるべきです。通常のチケットと同じ方法で買えるのが理想です。当日券も販売すべきです。大宮アルディージャのように、座席が空いていても当日券を販売しないのは悲しいです。

 

・ 介護者は無料か、有料か?

 

本人無料+介護者無料は、欧州やJ2でよく見られます。しかし、事前申し込みが必要で、手続きが複雑です。優遇があるため座席は、障害者専用です(車いす専用ではない)。予約ですぐに完売したり、実際に見に来ない人がいたり、当日券がなかったりと問題も多いです。少なくとも、有料での観戦もあるべきです。 

本人有料+介助者無料、関東のJリーグで主流となっている価格体系です。障害者本人の価格自体も安くなっています。一人でも観戦に来れる環境を作るべきです。私は反対です。

 

本人有料+介助者有料が、あるべき価格体系だと考えます。ただし、車いすの観客は座席選択が限られるため、価格面での優遇は必要です。最低価格を当てはめるのが妥当です。複数エリアに車いす席が設けられる場合は一般席と同じ価格でも良いでしょう。

 

本人と介護者の双方が有料の場合は、車いす単独席を発券できるメリットがあります。車いす幅平均60センチ(80センチ確保)、介護者のパイプ椅子45センチ(50センチを確保)とすると、横幅26メートルの車いすスペースの場合、介護者セットのみだと20。単独が半数だと介護者セット10台+単独16台、計26と多くの車いすが観戦可能となります。

 

介護者という表現が使われますが、付添人としたほうがいいと思います。付添人が2名いる場合(3人家族で子供が車いす等)は、該当エリアのチケットを持っていれば、もう1名付添人として一緒に観戦しても良いと思います。現場の柔軟な判断が必要です。
  


 
アクセスの保証

 

・ 公共交通の確保

 

 最寄り駅のバリアフリー化、輸送バスの低床化なども大切です。阪神甲子園球場が悪い例です。スタジアムは改装され、バリアフリーが格段に良くなりましたが、当初アクセスは無し。

 

・ 駐車場の優遇

 

 価格面において優遇するよりも、サービスや配慮を行うべきです。試合終了時、公共交通機関は非常に混雑するため危険です。駐車場の優遇をすべきです。関東のJチームでは駐車場の配慮が多くされていますが、駐車許可証の発行に手間と時間がかかります。許可証の郵送費、球団の人件費なども発生します。もっと簡略化して、車いす席のチケットがある、車いす利用者がいる(自動車に車いすが積んである)ことを確認するだけで、自動車が停められると理想です。障害者手帳による駐車許可はNGです。障害者=車いすでありません。

 

 不正利用(身体に不自由がないのに車いすを利用)には、厳正に対応します。車いす席の利用は、車いす利用者(けが人、病人OK)に限ります。

 

・ 複数の導線

 

 階段、エレベーター、スロープ、複数の導線が必要です。車いす席に行くのにエレベーターを利用しなければならない場合、車いす客が多いと、エレベーター渋滞が起きます。アヤックス、長居スタジアムにて、エレベーターに乗って外に出るのに、30分近く待たされた経験があります。スロープでの導線もあるべきです。スロープは満席時の混雑時など一般観客にとっても有効です。



その他

 

 

・ 車いす以外の障害者への対応

 

 視覚障害者には、実況のラジオサービス。聴覚障害者(補聴器)には、磁気ループという配慮があります。知的障害、精神障害についても座席への配慮は必要ありません。障害者手帳保持者への割引をしているところもありますが、私は反対です。車いす以外の障害者へ配慮をするのであれば、招待券を配布することで良いと思います。 
 
・ 高齢者、ベビーカーなど

 

 足腰が不自由であるなら、車いすを利用し、車いす席を利用できます。長い階段を利用するのが大変な人のためエレベーターの設置も考えられますが、利用者が多くなり混乱します。なるべく上下移動の少ない構造にするべきです。ベビーカーに関しては、預ける場所を1ヶ所作ります。安価なファミリー席(立見禁止)の設置があれば、その場所に。授乳室、オムツ交換室も設置します。

 

・ なるべく一緒に

 

 売店やショップにも、車いすでアクセス可能にするべきです。車いす席が隔離されることなく、大勢の観客と一体となって観戦できる環境であるべきです。