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ヨォロッパ一周大冒険(7)

1994/07 - 09

カズとの出会い / イタリア


ミラノのドゥーモにて

日本を発つとき、カズが、セリエAのジェノアに入団し話題になっていた。機会があれば、イタリアでカズの試合を見たいと思っていた。その思いは、イタリアに来てからも強くなっていた。イタリアのメディアでも日本人初のセリエAの選手として大きく取り上げられていたからだ。同じ日本人がイタリアで活躍し、そのことでイタリア人と話して盛り上がれるのは、なんとも鼻が高かった。

ミラノについて、スポーツ新聞のガゼッタを買って、試合日をチェックすると、なんと翌日に、ジェノバ近くのサストリレバンテという街で練習試合が。その翌日に、同じくジェノバ近くのサボナという街で練習試合があることを知る。早速、ジェノバ行きのチケットを買い、電車の出発時間まで、ミラノ中心部をぶらつくことにした。

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ガレリアのミュージアムショップ「LINEALIA(今、その場所はマクドナルドになっている)」で素敵な買い物ができたのでウキウキ気分で、ドゥーモの横を闊歩していたら、何やら、でかい声で話す日本人がいる。

なんだ、せっかくのミラノ気分に浸っているのにムードをぶち壊すなー、と思っていると、その声は、だんだん近くなってきた。しかし、どうも聞いたことのあるような声だ。誰だろう? とその瞬間、声の主とすれ違った。アッと思ったそのとき、思わず声が出た。

「カズさん!!!」

声の主は、スーパースター、カズだったのだ。

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思わず声をかけたが、カズは立ち止まり、快く一緒に写真を撮ってくれた。奥さんの設楽りさ子さんと、おつきの人と、イタリア人と4人の一行だった。カズは、翌日、ジェノバ近郊で試合があると新聞で見ていたので、200kmも離れたミラノにいるとは思わなかったから、余計にビックリした。

緊張しながら、「明日、試合ありますよねー? 応援に行きますから頑張ってください」。よくありがちなファンの一声しかいえなかった。声をかけて写真を撮ってもらっただけでも良しとしよう。


ジェノバにて

カズとの出会いの興奮も冷めないまま、ミラノから電車でジェノバに向かった。ジェノバに着き、ホテルもなんとか見つかり、小一時間ベッドで休憩した後、夕食に、うまいピザでも食おうと、街の裏通りに車イスを進めた。

そうすると、道の先の角に、設楽りさ子さんが立っていた! 思わず、「また、会いましたね。覚えてますか?」 と声をかけると、「よく、ここがわかりましたねー」と言う。心の中で「どうやったら、わかるねんこんな場所」と思ったが、顔には出さず「いやー、偶然ですよ」と答えた。りさ子さんの私に話す口調は、明らかに見下していた。そりゃ、私は庶民ですよ。

とはいえ、千載一隅の機会。りさ子さんと会話をする。話を伺うとちょうど車を購入しているところという。車は紺のフォルクスワーゲンのゴルフだった。カズにしては意外に地味な車だと思うが、狭いイタリアの街中を走るにはちょうどいいのだろう。りさ子さんも、これで買い物とか外出が、自分一人で行けるようになると喜んでいた。三浦夫妻が住んでいるジェノバの家は、郊外の一軒家で街から遠いらしい。

しばらくして、カズも店から出てきた。、軽く挨拶をして少しばかり話した。カズは、爽やかに「また会ったよね」と優しく声をかけてくれた。同じ日に、違う都市で(しかも道端で)偶然に2回も会うなんて不思議だ。それもスーパースターと。ピザ屋探しで、たまたま曲がった道に幸運が落ちていた。

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さて、カズが車の引渡しを終えたので、また明日応援に行きますと二人に言って見送った。さすがに、「夕飯一緒に食べませんか?」とは、図々しい私でも言えなかった。


ヘディングシュート

カズと、同じ日に、違う都市で、2回も会った日の翌日、カズの練習試合を見るために、レンタカーオフィスに行って車を借りた。その車で、ジェノバから1時間強、海岸線の静かなリゾート地が今夜試合があるところだ。ちなみに、街でサッカー場はすぐ見つかる。必ず、街には中心部に行く道路標識と、サッカースタジアムに行く道路標識があるからだ。

早めに、スタジアムに入って待っていたら、どうも駐車場でイバラを踏んだみたいで、車イスのタイヤの空気が抜けてきた。あわてて、周りの人に自転車はあるかと聞いて、幸運にも歩いていけるところに自転車屋があり、パンクを直してもらった。しかも無料でしてくれた。なんとかアクシデントも乗り越え、試合時間にもなんとか間に合った。

ところで、スタジアムだが、田舎の小さなスタジアムなので車イスの席なんてない。この旅で覚えた無料で入れて作戦もなんなく成功し(というか勝手に入れてくれた)、階段の座席も、一番最前列まで、皆さんに手伝ってもらって降ろしてもらった。パンク直しに行ったから二度も。

試合は、相手チームが弱いこともあって、4-0 でジェノアが完勝。しかも後半は、ゴール裏に移動して、ゴール裏のすぐの金網に顔を寄せて観戦していたら、コーナーキックから、カズがヘディングシュートでゴール!!! 目の前のゴールネットに、ボールが飛んできてゴール。周りのイタリア人は、日本人である私に、良かったな良かったなと祝福してくれる。何人ものイタリア人と抱き合って喜び、握手をした。 カズのおかげで本当に鼻が高い。幸せだ。

試合終了後、選手がバスに乗りこむのを皆が待っていた。子ども達は選手からサインをもらおうと必死だ。もちろん、ダントツの一番人気はカズだ。私も遠巻きに見ていると、あるイタリア人が「ここに、はるばる来た日本人がいるから、皆、道を開けろよ!!」と言ってくれ、人をかき分け、私をカズのところまで連れて行ってくれた。イタリア人は、やさしいーな。お陰で、またカズと話ができた。


カズと試合観戦

次の日の試合は、ジェノアの西の中都市サボナ。車を走らせ、またも早めに試合会場につく。しばらく後、カズが例のフォルクスワーゲンに乗ってやってきた。門の前で待っている私に「今日、試合出ないよ」と言う。なんだ、つまらないなー。せっかく来たのに。

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このときにサインをもらいました。


さて、試合が始まる時間が迫ってきた。またもスタジアムには無料で入れてもらって、座席はどこに座ろうかと考えていた。座席は、スタンドの階段席しかなく、エレベータやスロープなんてもちろんない。

しかし、そんなことは心配ご無用。スタジアムのスタッフが「お前、ベンチの横で見ていいよ」と言ってくれる。スタンドに上がるのは大変だろから、グランドサイドで見てもいいよということ。なんてやさしいのだろう。 なんて融通が利くのだろう。

早速、グランド内に入って、テケテケーとジェノアチームのベンチ横に陣取る。カズもベンチにいるはずだから、また話せるかもと期待した。。。 ところが、ベンチにカズはいない。スタンド席に座っている。アレレー! せっかくベンチ横に座らしてもらったのに、カズがいなきゃ意味ないじゃん。

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さて、ここからが、私の力の見せどころ、というか変なところ。満員になったスタンド席に座るカズの隣が空いていた。なぜかスタンドから、カズが私に「ここで見ろよ」と言ってくれた気がした。本当に言ってくれたのか、空耳なのかはわからない。カズの隣の席は確かに空いている、しかし、そこはスタンドの中段で階段席だ。歩けない車イスの私が、どうやってそこまで行くのか???

まず、カズに「隣座ってもいいですか?」と確認をとった。カズは「いいよ」と返事した。それから、まわりにいるイタリア人に訳のわからない単語の組み合わせのイタリア語でカズの隣に座るから助けてくれと説明した。私の話すことばの意味はわからないが、その必死さはイタリア人に伝わったのだろう。二人のイタリア人に抱っこしてもらって、カズの隣に座った。車イスは、スタンドの最前列に置いたままで。。。

我ながら、この根性は素晴らしい。言葉も通じない外国で、しかもスーパースターの横に座る。しかも階段なので自分でいけないのに、周りを巻き込んで手伝ってもらって座る。外国にいるから、母国語でないから、こんな行動が取れたかもしれない。言えば何とかなる国、イタリアは素晴らしい。懐が深い。言わなければ何にもならないので個人の能力がいるけれど。。。

さすがのカズも、周りの観客に担がれて隣に座りにきた私にビックリしたみたいだが、私に対する接し方はあくまで自然だった。ファンを大事にしてくれる素晴らしい人間性。真に一流になる人は、単に技術とか体力とかだけでなく、人間性も一流なんだと感じた。

カズは、私にジュースをおごってくれた(カズは一流選手だからか摂生していて飲まない)。私もおやつとして持っていたグリッシーニ(細長ビスケットパン)をカズに薦めた。しかし、あっけなく断られた。食事にも細心の注意を払う一流スポーツ選手に、スナック菓子を差し出す自分に恥じた。

試合が始まると、カズがプレーを解説してくれたりした。カズはギャグもいったりもした。「相手チームは、セリエ Zだよね」=弱すぎるということ。後半になると、カズは、副監督からジェノアのシステムについて説明を受けるため一段上に席を移動したので、後半は一人寂しく試合を見た。しょうがないよね。カズは選手で仕事中なのだ。さすがプロフェッショナル。

試合の最後、選手同士の小競り合いがあって、試合が荒れ始めた。セリエAのチームといえど、アウェイのチーム。ブーイングが飛び始める。いつのまにか、カズの姿は消えていた。試合後、荒れた観客に絡まれたりしたら大変だろうから、早めに退散したのだろう。試合は、10-0 でジェノアの完勝で終わった。カズとお付きの人が消えて、隣は誰もいなくなった。私だけが残った。夢のような時間はあっというまに通りすぎた。

試合後は、担いでもらった人たちと違う観客に頼んで、車イスのところまで降ろしてもらった。本当、みんな親切だ。

日本サッカー界から最初に世界へ飛び出したスーパースターである三浦和良。サッカー選手としても超一流だが、その寛容な心も超一流。楽しかったイタリアの長旅を締めくくる至福の時でした。


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